2023.01.18
他社の追随を許さない世界特許「α」型毛根の秘密
毛髪インプラント(人工毛植毛法)のリーディングカンパニーであるニドー社の人工毛は、毛根に当たる部分が「α」型になっている。現物を手に取り、つぶさにみると交差点に結び目がない。自然にくっついている。電子的に熱を加え、一瞬のうちに融着させるのだという。なぜ、こんな形状なのか?
「植毛後の定着をよくし、同時にいざというときに抜けるようにするためです」
開発者に訊くと、なんとも不思議なことを言った。
定着率をよくする、というのはわかる。でも抜けるようにする、というのがわからない。わざわざ毛を植えるのだから抜けてはダメなのではないか?
それに定着率をよくするのというのは抜けにくくするということのはずである。なのに、同時に抜けるようにする、とは相反する特性を追求するということと同義で、矛盾ではないのか?
「そうですね。でもその相反することを達成しなければ、人工毛植毛はどっち着かずの中途半端な製品になってしまいます。だからなんとしてもその両極の特性を兼ね備えた製品を作る必要があったのです」
開発者は、「α」の秘密を語り始めた。
植毛の定着率をよくするためには「毛」をそのまま植えたのでは、すぐに抜けてしまう。根元に引っ掛かりがないからである。これは素人でもわかる。抜けにくくするには、毛根に当たる部分にひと工夫が必要だ。つまり引っ掛かりを作る必要がある。
どんな引っ掛かりを作ればよいのか。丸結びを作る。丸結びを二重にする。L字型にする。理論上はいろんな形が考えられる。
開発者は試行錯誤の末、たどり着いたのが「α」の形である。
実験の集積から、人工毛は簡単に抜けるのは論外であるが、反対に絶対に抜けないのもいけない、という結論を導き出していた。なぜ抜けないのは失格なのか?
人の毛根部は表皮から雑菌が入って炎症を起こすことがある。ニキビが頭皮に起こるような感じで、ときに化膿する。経験した人もいるはずだ。
あれが人工毛を植えた後に起こらないとも限らない。
起こった場合、炎症のもととなっている毛を強制的に抜かなければならないが、「毛根」を太くして引っ掛かりを強力にした人工毛だと、皮膚を破壊してしまう。皮膚を破壊する傷痕が残って醜い。青春真っ盛りの少年のニキビ面が、ハゲ頭に起こってしまい悲惨な結果になってしまう。引き抜くときに、根元で切れてしまった場合、最悪である。炎症のもととなっている「毛根」が頭皮内に残ってしまい、切開手術をしなければならなくなる「α」の形の必然性はそこから生まれた。
この形だと、輪が引っ掛かりとなり、定着率の効率化の向上に貢献するのは間違いない。実際は植毛時にいったんは押されてるぶれ、植えた後に復元するのだという。
低い確率とはいえ、植えたあとに炎症が起こったとしても、強い力で引っ張れば輪がほどけて1本の毛となり、スルスルと抜けるのである。
「そのためには輪を結んで作ったのではダメですね。引っ掛かりが強すぎて、強制抜去の必要があるときにトラブルのもととなります。で、電子で融着させる方法にたどり着いたのです。これならほどよい強さとなり、植毛の定着率を上げつつ、同時に頭皮を傷つけずに引き抜くこともできる。この一見相反する特性を同時に持つ人工毛を開発したからこそ、製品化の道が開けたのです」
開発者は、ここぞとばかりに勢い込んで話した。
自然な頭髪は人にもよるが50~80gの力が抜ける。「α」の形をした毛根をもつ人工毛はすべて150gの力で抜けるように作られている。
人の頭髪より抜けにくいが、いざという時は抜ける…という意味はそういうことなのである。人工毛の中には結び目を毛根として抜けにくくする方式のものがあるが、そこが「α」型を持つ人工毛とは、決定的に違う点だ。
参考書籍
「床屋も間違える驚異の毛髪術」 著者:黒木 要